「知の再構築学会」設立趣意書
会長 宮脇淳子
学問の本義とは、単なる個人の趣味の探求ではなく、本来は世の中の進歩への貢献のはずである。
ところが従来、学問の世界はおのおの専門領域を有し、その境界を越えることはほとんどなく、
隣接学問にすら触れることはしてこなかった。
たとえば歴史学において、日本史は世界史とは無縁に語られることが多く、その日本史においても近代史が中世史に立ち入ることはまれであり、さらにその近代史においてさえも、ある特定の事例のみに研究が特化されて、他の事件には触れないような研究が多数存在してきた。
しかし、ある事象を分析するには、他の学問領域からの助けが不可欠である。たとえば日本の近代のある事象を分析するために、社会科学分野の概念が有効である、あるいは西洋史からの類推が助けとなる、はずではなかろうか。だがそうした手法は、これまでほとんどタブー視されてきた。
そのため、ある学問領域では常識であることが、別の学問領域ではその存在そのものが知られないこともしばしば見られる。また、特定の学問領域内で無理矢理結論を作りあげるために、いびつなオブジェのようなものを組み立ててしまうことさえあった。こうして、学問分野のなかには、閉塞感に陥り、ときには進歩をあきらめているようにさえ見受けられる事例が出てきている。
当学会の前身の「昭和12年学会」は、変化の年であった「昭和12年」をキーワードに、日本史・東洋史・西洋史だけでなく、軍事学・地政学・憲法学・国際法学・情報史学・思想史・文化史・郵便学と、さまざまな分野から多様なアプローチを試み、学問の枠を越えた学者の交流という当初の目的を達成したと自負している。ところが今度は「昭和12年」が縛りとなり、さらに多くの専門分野の参画ができなくなっていた。
そこで今回、「昭和12年」の枠を外すことにより、これまで以上に、学問の発展に向けて大胆に踏み出すことを、ここに宣言する。
新学会名を「知の再構築学会」と名づけたのは、学問を意味する知を、これまで構築されてきた専門分野の枠組みを取り払い、既存のやり方を変えて再び新しく構築するということを意味する。本学会は、これまで以上に、専門分野にとらわれない優れた学者が集まり、互いに切磋琢磨することによって、新たな知を生みつづける場となることを宣言するものである。
令和6年9月1日
宮脇淳子